
毎週楽しみにしていたテレ東深夜ドラマ『湯けむりスナイパー』が終わってしまった。笑いあり、涙あり、サスペンスあり、バイオレンスあり、お色気ありの密度の濃いこのドラマ。あらすじは、かつて殺し屋だった源さんが、過去を清算して秘境の温泉宿「椿屋」で人生のやり直しをはかるというシンプルな内容だ。
なぜこれほどまでに夢中になって見ていたのか考えてみたんだけど、一番惹かれたのは演出の部分だったように思う。もちろん主演の遠藤憲一さんをはじめとする俳優陣の演技、原作や脚本、音楽の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいんだけど。
たとえば、監督の大根仁さん自身が"オレなりの深夜ドラマの到達点かも"と言っている「人生の先輩」の回。あらすじはこうだ。
ある夜、落雷で温泉街一帯が停電した。復旧の目処は立たず、椿屋に宿泊中の団体客は苛立ちを募らせて騒ぎ出し、収拾がつかない状態に陥る。番頭の捨吉は、苦肉の策で元ストリッパーのトモヨを呼び、ストリップショーを開いて客の気分を紛らわすことに。
さっそく源は、トモヨの迎えを頼まれ、彼女の家に出向くと、色気のない中年女性と知り絶句する。とてもストリップができるとは思えず不安が募るが、仕方なく宿へ連れて帰る。トモヨと対面した女将も、源と同じ気持ちでいた。2人の心配をよそに、とうとうトモヨことストリッパー"カトリーヌ山岸"のショーは本番を迎える。果たして、トモヨことストリッパー"カトリーヌ山岸"のショーは、宿泊客を満足させることができるのか...。
(オフィシャルサイトより)
大方の予想通り、"カトリーヌ山岸"は醜いガマガエルのような姿から煌びやかな蝶に化けて団体客を満足させることになるんだけど、この変身シーンの描写が見事としか言いようがない。つげ義春先生の『ゲンセンカン主人』に出てくるおかみさんのような変貌ぶりといったら漫画好きには伝わるだろうか。
変身前は、裂いたスルメを口にくわえながらヨロヨロと玄関先に出てきてボエッとゲロを吐くような酔いどれ山姥なんだよ? 画面のこっち側まで酒の匂いが漂ってくるような薄汚い太った女が、体中から光を放つ抜群のプロポーションの美女に変身するというこの超絶展開!
ちょっと想像してみてもわかるように、"同一人物の見た目の変化"っていうのは、明らかに実写よりも漫画向きの描写なんだけれども、それを映像化するときにこのドラマが採用したのが、"2人一役"という手法。
女優(池谷のぶえさん)の演技のうまさも手伝って、視聴者は明らかに違う役者さんが演じていることを頭で理解していながらも、どういうわけか、あたかも同じ人物が変身したかのように錯覚してしまう。「うわっ、こんなに化けたのか!」と。その見せ方が笑えるくらいに衝撃的なのだ。この変身シーンだけを見てみても、スローモーションや細かいカット割り、効果音、BGMのフェードインなどいろんなテクニックが駆使されていることがわかる。
さらに、"カトリーヌ山岸"がもとのガマガエルに戻ってから、自宅で見せるすがすがしい表情の素晴らしさといったら! 変身後の蝶よりもさらに美しい表情をしているかもしれない。たった30分の間に1人の女性の3つの表情をここまで丁寧に描き分ける、そんな細やかな演出が『湯けむりスナイパー』を傑作たらしめているのだと僕は思う。人間誰しもいろんな側面を持ってるからね。毎回そこにスポットを当て続けたこのドラマが面白くならないわけがない。
「男の夜食」という短いエピソードでも演出が冴え渡る。これは、番頭さんと源さんが夜中に河原で袋入りのインスタントラーメンを作って食べるというだけの話だ。
源さんは、白い湯気が立つ麺をフーフー冷ましながら大きな口を開けて一気にかきこむ。ズルズルと音を立てて麺をすするその姿は、さながら『オバQ』の小池さんのよう。やがて鍋の中に1枚の紅葉の葉が舞い落ちる──。夜中に屋外で袋のラーメンを食べるというただそれだけの行為が、"元殺し屋"という特殊な人物の心を通じて、穏やかな日常を生きることの喜びへと昇華されていく。
こうした描写は、ラーメンがうまそうに見えなければここまで深く心に響くことはない。袋入りの安っぽいラーメンが、とことんうまそうに描かれているからこそ、視聴者は源さんの感じた"幸せ"を疑似体験できるのだ。
『アルプスの少女ハイジ』の"とろけるチーズ"に『ツイン・ピークス』の"チェリーパイ"、うまそうな映像表現にはいろんなものがあるけど、今後、『湯けむりスナイパー』の"袋ラーメン"もそうした"伝説フード"と肩を並べて語り継がれていくことになると思う。
全エピソードの中で最も感動的だったのは、「源の休日」。この演出の素晴らしさは、ぜひとも実際にその目で確かめてもらいたいところ。幸いなことに、8月にはDVD-BOXが発売される。僕は当然のように予約したけど、これが正しい形でヒットすれば続編が作られる可能性もあるという。源さんの元気な姿をずっと見続けていたい番組ファンとしては、なんとしても売れて欲しい。


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